ヒアリングの時に、質問を上手く会話の中に取り入れていますか?ヒアリング力を高めるSPIN話法とは
SPIN(スピン)話法はヒアリング力を高めるテクニックの一つです。
お客さまに、色々な質問を投げながら、会話を展開していき、お客さまの考えや思いを確認し、ステップを踏んでいき、ニーズを掘り下げていくという事が基本的なプロセスになります。
お客さまの課題を明確化できるSPIN話法を取り入れれば、今よりもさらに質の高い質問が行えるようになります。
ヒアリング力を高めることができる、SPIN話法の内容や商談で活用できる具体的な例、コツなどを紹介していきます。
SPIN話法とは・・・
SPIN話法の考案者はイギリスの行動心理学者のニール・ラッカム氏で、以下の4種類に体系化されています。
「S」:Situation (状況質問)
→お客さまの現状を理解する
「P」:Problem(問題質問)
→お客さまのニーズを明確にし、気付かせる
「I」:Implication (示唆質問)
→問題の重要性を認識させる
「N」:Need-payoff (解決質問)
→理想の状態をイメージさせる
この4種類の質問を会話に取り入れることで、ヒアリングを最大限生かす事ができます。
最初にお客さまの状況を聞き(S)聞いた内容から、
気がついた問題点に関して「〇〇のような事に、困っておられませんか?」のように質問し
お客さま自身が問題点に気付くように話題を広げます(P)
次に、挙げた課題の重要性を認識してもらうための質問を投げます(I)
最後に、解決する為には何が必要か質問(N)を行い、お客さま自身に解決方法へ辿り着いてもらいます。
その後で、自社の商品・サービスのセールストークにつなげていきます。
では、SPIN話法について、詳しく説明していきます。
S(Situation–状況質問)
Situation(状況質問)は、お客さまのおかれている状況や環境を把握するために質問をする事で、SPIN話法の最初に行われる質問になります。
できれば、状況や環境について、現在の質問だけでなく、過去や未来についての質問も行えれば、現在の状況を、より具体的に知る事ができます。
但し、いきなり唐突に質問を始めるのではなく、
いくつか教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?
というような感じで、前置きをした上で質問に移りましょう。
1.多くの質問をしすぎない事
・冗長(だらだらと無意味に感じる)になる
・尋問されている気持ちになり、不快に感じる事もある
2.事前に調べられることは調べておき、質問の数が多くならないように絞り込んでおく
3.もし質問が多くなりそうなら、質問という形ではなく、会話の中で自然に聞き出すようにする
4.なるべく手短に、さらりと質問を行い、次の質問に移っていくのがコツ
Situation (状況質問)の例
- 現在、どのような商品やサービスを使用していますか?
- 現在導入しているサービスはいつ頃から使用されていますか?
- 〇〇の管理には、どのようなツールを使われていますか?
- 新入社員への教育は、どのようにされていますか?
- 最近はテレワークも一般化してきましたが、御社はリモートの商談には、どのようなツールを使用されていますか?
- 普段はどのような業務を担当していらっしゃいますか?
- 現在〇〇を担当されているとのことですが、業務はどのようなものですか?
- 専任の管理者はいらっしゃいますか?
このように、お客さまの状況や環境を把握する為の質問を行いながら
メモなどを取り、お客さまの課題や不満、困っていそうな事などについて仮説を立ててみて、次のSTEPの「問題質問」を行います。
P(Problem–問題質問)
Problem(問題質問)での質問の意図は、お客さまが抱える潜在ニーズを引き出し、お客さま自身に認識してもらうことです。
このように問題質問する事で、お客さまの課題や不満、困りごとなどを聞く事ができます。
さらに、ヒアリングする事で、その現状に対してどう考えるかというお客さまの意思・考え・評価などを知る事ができます。
質問がお客さまの課題や不満、困りごとにあてはまれば
そうそう、そこ! 困っているんですよ。
のような、回答を受ける事ができます。
これは、お客さま自身が、問題に気づいてくれた時に、よく言われる言葉です。
この回答をきっかけに、さらに、内容を深く質問していければ、より具体的な問題にたどり着くことが可能になります。
問題質問はクローズド・クエスチョンで
問題質問は、顧客の抱える課題を引き出す質問で、基本的にはクローズド・クエスチョン「はい/いいえ」で答えられる質問を行いましょう。
例えば・・・
営業の残業が多く困っているんです。
(想定できる仮説)
1.営業の業務で非効率な業務があるんじゃないかな?
2.現在利用している営業システムに不便を感じる点があるのでは?
このように、仮説を立ててから、問題質問を行い、お客さま自身が認識していない問題を発見していきます。
問題を発見したら、その問題を解決できるか考えましょう、完璧に解決することができればベストですが、そういうケースは少ないと思います。
まず、その問題に対して、改善のお手伝いができるかどうか考えましょう。
このお手伝いに、ビジネスチャンスがあります。
何か困ってることはありませんか?
うーん、困っている事はないですね
この質問では、内容が大きすぎて不明確なので答えにくいです。
〇〇について困っていませんか?
そうですね、○○の効率化は課題になってますね
質問の内容が具体的であれば、答えやすくなります。
また、問題点や不満点は、お客さま自身に話をしてもらうようにしましょう。
他人に言われるよりも、自分自身で口に出すことで問題を認識しやすくなります。
但し、連続してクローズド・クエスチョンの質問をしてしまうと、威圧的な印象を与えるため、
適度にお客さまが自由に回答できるオープンクエスチョンの質問や雑談も交えながら進めるようにしましょう。
最近○○に悩んでいるお客さまが多いのですが、御社の場合はどうですか?
そうですね、うちも○○については検討事項になってますね
一般的な例や、他のお客様が抱える課題を提示するという方法もあります。
Problem(問題質問)の例
- 〇〇を1人で対応するのは、時間的に大変ではないですか?
- 今使用されているサービスに、何かご不満な点はないですか?
- 専任の管理者がいなくて、業務上、困っていませんか?
- 使用中のサービスにあったらいいと思われる機能やサービスはありますか?
- サービスの使用時に改善したいと感じることはありませんか?
- 毎日100件ほどの電話を個別にかけるのは、結構大変ではないですか?
- オンライン商談で、何か不便に感られる事はありませんか?
このように、できるだけ問題を掘り起こせるように、潜在ニーズになると思う事を質問しましょう。
I(Implication–示唆質問)
示唆とは、「それとなく」教えることです。
問題質問で聞いた、お客さまの課題や不満、困りごとなどに対して、どんな課題や問題があり、それを解決する事の必要性について、お客さま自身に認識してもらう為、ヒントを盛り込みながら質問を行います。
お客さまが自ら気が付けるように、手助けをする感覚で質問をしていく感じです。
1.エアコンが壊れているのでは、夏のドライブは大変ですね
2.タイヤの溝が少ないのでは、雨の日や高速道路での運転は危険ですね
そうですねー(・・そう言えば、車点検したのいつだったかなー)
このように、抱えている問題に潜んでいる影響は深刻なのか?を、それとなく示していきます。
具体的な示唆質問をしていくことで、お客さまは、問題に対する危機感を抱くようになります。
結果として、お客さまに「何かしらの、解決が必要だ!」と思ってもらう事が目的になります。
Implication(示唆質問)の例
- サーバーで障害が発生した時、データー復旧だけだと、システム環境の復旧に時間がかかってしまい、業務に支障がでませんか?
- 営業が顧客情報を都度手入力するのは、長期的に見て、時間的コストや営業活動機会の損失が大きくはないでしょうか?
- 専任の管理者がいないとのことですが、それでは属人化や個人への負担が大きくなりませんか?
- この問題によってほかの部署に与える影響は無いですか?
- 現在の運用方法のままでは、業務の効率化は難しくないですか?
- 現在のサービスを使い続ければ、業務効率化のタイミングを失うことになりませんか?
- 情報セキュリティの担当者がいないとのことですが、それは、日々の情報流出などのリスク対策への対応は問題ないですか?
この示唆質問は、ベテランの営業でも難易度が非常に高いといわれています。
そのため示唆質問のヒントとなる5つのキーワードをご紹介します。
これらのキーワードを活用する事で、示唆質問が作りやすくなり、お客さまも質問に対して必要性を認識してもらいやすくなります。
- 時間:納期に間に合わなくなる、迷惑をかけてしまう
- 労力:ムダな仕事、非効率
- 経費:コストアップ、ムダな経費
- 責任・立場:担当者の立場、会社の責任
- 信頼・迷惑:顧客の信頼、信用
慣れないうちは、「こんな影響、あんな影響もある」など、多くの質問して、お客様に不快感を与えないように配慮する必要があります。
また逆に、質問が遠回しになり過ぎて、問題・課題を認識してもらえない場合もあります。
まずは、ゆっくり会話しながら、お客さまの反応を見ながら、質問を考えて進めていきましょう。
N(Need-Payoff–解決質問)
状況・問題・示唆質問で明らかになった、お客様が認識した課題に対して適切な解決方法を、質問の形で提案を行い、自社の商品・サービスに関心を持ってもらうことを目的として行います。
但し、必ず、お客さまの課題と提案内容に解決策としてのつながりがあることを確信出来てから質問をしましょう。
くれぐれも、お客さまが解決策にたどり着く前に自社の商品・サービスを提案しないことです。お客さま自身が解決策に気づくのを待つことが重要です。
まずは、解決する為に何をすべきなのか?
お客様に話をしてもらう質問を行います。
注意としては、質問のなかに「解決を入れない」ことです。
- データーとシステム環境の復旧が同時にできれば、業務を殆ど止めずに運用ができるのではないですか?
- システムの検索・処理スピードが3倍以上になれば、業務のストレス低減、効率化になりませんか?
- 商談をプロセス毎に管理できれば、営業機会損失を防げ、利益向上につながりませんか?
- もし電話アポから、そのままオンライン商談ができたら商談数が増やせると思いませんか?
- 情報システム部の皆さんの社内サポート業務の負荷が軽減できれば、本来の仕事である開発業務はスムーズに進みますか?
次に、課題解決後のイメージを持ってもらえたら
この課題が解決できたら、このような利益につながることがあると思いませんか?
と、解決に向けた質問をしていきます。
最後に・・・
今必要だと思っている商品・サービスは、弊社の〇〇で解決できます!
と、営業に結びつけていきましょう。
現状の業務にかかっている時間を減らせるならば、より成果を出すことができるかもしれませんね。
当社の〇〇サービスは、同じ課題をお持ちの多くのお客さまに導入させて頂き、成果を出しています。
当社の〇〇サービスを導入して頂く事で、リソースを割いていた〇〇が自動化できて、営業の機会損失を減らし、受注金額増加、つまり売上高の増加が見込めます、いかがでしょうか?
このように、お客さまの課題と自社の商品・サービスを結び付けて会話行いをましょう。
SPIN話法を使う上で意識する事
SPIN話法を使う時には、以下の点を意識することで質問の精度を上げられます。
事前準備をしっかりと行う
これは、営業活動の基本中の基本ですが、商談の前に、必ず事前準備をしっかりと行いましょう。
最初の状況質問(S)では、お客さまの立場や現状の質問をしていくことになるので、できる限り、事前に情報を集め仮説を立てて、商談の進め方などの計画を立てましょう。
また、電話やメールなどで、商談の約束をする際などに、お客さまの要望などの概要をつかんでおく、商談当日に質問することを事前にリストアップするなどの準備をしておきましょう。
商談規模に応じて「S・P・I・N」の順序を考える
S・P・I・Nの順に質問すると、「S」で現状を知り、「P」で問題を明らかにして、「I」でお客さまがその課題の必要性に気付いてもらい、「N」でその課題に対する解決策を提案し、自社の商品・サービスにつなげる、という流れになります。
大型商談(おおよそ数百万以上)の場合
大型商談の場合は、S→P→I→Nの順が効果的な流れだと思います。
大型商談は、受注するまでの期間がある程度長く、商談(打合せ)も何回も行います。
S→P→I→Nの順で質問を行い、お客さまが質問に回答していく事で、頭の中が徐々に整理されて課題が明確になり、その解決策を見つけて、商品・サービスの必要性を感じてくれるまでのSTEPをきちんと行えるからです。
小型商談(おおよそ数百万以下)の場合
小型商談(数百万以下)の場合も、基本はS→P→I→Nの順で質問を行う形で問題はないと思います。
ただ、小型商談の場合、受注までの期間が短く、商談(打合せ)も数回で終る場合も多いです。
また、営業的にも、金額が低い商談では営業効率も求められます。
ですので、効率化を考え、少ない商談回数でクローズまで進める為には、状況質問(S)→解決質問(N)と(P)と(I)を飛ばしても問題ないと思います。
①状況質問(S)
現在の御社の営業管理は、どのように行われていますか?
②解決質問(N)
当社でご提供できる商品・サービスでは、〇〇のような問題解決ができますが、ご興味ありますか?
もし、時間や回数などに余裕があれば、例えば・・・
③示唆質問(I)
現在の状況で、何のサービスも導入しない場合、業績や営業パフォーマンスの低下を招く可能性がある場合、どうされますか?
④問題質問(P)
やっぱり、営業プロセスが管理できないのは問題だと思われますよね?
大型商談と小型商談の大きな違いは、提供する商品・サービスや解決できる範囲の大きさに違いがあります。
小型商談の場合、あらかじめ解決できる範囲が決まっている場合が多く、初回の商談時に解決範囲に入っているかどうかで、その後の商談に進むか進まないか判断する事が必要になります。
ですので、小型商談の場合、S→P→I→Nの流れで商談ができれば完璧なのですが、商談回数が少ない中で進めなければいけない事、営業効率を考えると、中々難しいのではないかと思います。
訪問後(商談後)メールでアフターフォローを忘れずに
訪問後には、商談でヒアリングした内容をまとめ、お礼とともにメールで送りましょう。
この際に、商談の時にできなかった質問などを併せて送る事で、問題解決のヒントを掴める可能性が高まります。
また、営業ですので、お客さまに良い印象を与え、信頼関係を深めるためにも、アフターフォローの対応は大切にしましょう。
まとめ
SPIN話法は、4つの種類の質問を順番に行い、お客さまの潜在ニーズを掘り起こし、成約率をあげるための科学的根拠のある営業手法です。
ただ、SPIN話法は、誰でも簡単に習得できるものではありません。
SPIN話法の中でも、一般的に難易度が1番高いと言われているのが「示唆質問」です。
「示唆質問」をするためには、「As Is(現状)」を正しく把握し、「To Be(理想)」とのギャップを把握するというビジネスで活用されているフレームワークを理解している必要があります。
「示唆質問」では、この「As Is」の状態が続く場合にどんな問題や不利益があるかを質問します。
質問に失敗・成功はありません、お客さまの心象が悪くならなければ、いくらでもリカバリーできます。
まずは、自分なりの「示唆質問」のパターンを作ってみて、練習・実践を重ねて身に付けてください。